1.
空想の中で音楽を聴いた。
目を閉じて暗闇より黒い暗闇をじっと見つめる程、夢のオルゴールは固く輪郭をはっきりとさせた。
手を伸ばし、両手で包むように触れる。
木の箱。
そのオルゴールを開けると、
角砂糖が融けるようにばらばらになってしまうような空想があったので、
角張った表象を感じるに留まった。
空想の中で聴いた音楽とは、
水の流れる音と、ときどき車が走り抜ける音。そして時おりの電気の迸る音。
何だと考えたら、それは青春のノスタルジアで、思い出が音楽になっていた。
通学路の紫陽花と透明な雨。ビニール傘越しの少しぼやけた街だとか、
まぶしいグラウンドの上、青い空と入道雲とか、
朝の8:20頃、桜吹雪の中を走っていく制服と自転車とか、
あああ。
そんなテンプレートのような青春の幻はしばらく胸を煽り、然る後身体を不安にさせた。夢の中なのにいたたまれなくなった。
そっと箱を開けた。瞬く間にカオスが広がって行った。
2.
空は、濃く暗いオレンジ色から、ぼんやりと群青色を示し始めていた。
電柱が夕空を背景に、黒い枝となってぽつりぽつりと佇んでいる。
呟くように星がぴたぴた。
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風が足下、道をすりぬける。
昨今流行りの足首の開いたズボンでは少し寒かろう。
ああ、何とかやってみて欲しい。今のお前でもできないかい。